2018年2月10日土曜日

君は何色が好きなの?

折に触れて、行方不明者の捜索を行う種類のネットサーフィン。
あの人はいまいずこ、みたいな。

ぱっと思いついた人を探すから、当然限界がある。
そうすると、件の行方不明者がこっそりとレコードを出していたりする。
これは少しくやしい。僕が探し出してあげたかった。

Injectedさんは昨年、ひっそりとレコードを出していた。
最近知った。今回も出し抜かれたのだ。

The Truth About You
The Truth About You
posted with amazlet at 18.01.29
Slush Fund (2017-06-02)





賄賂、という名前のレコード会社があるのか。


一方で、見つけられなかった言い訳らしきものはある。

まずこのレコードは、英語版ウィキペディアのページに(まだ)載っていない。本人たちHP持ってなくて(FBページにリリースの紹介がある)、日本の音楽ニュースももちろんスルー。
敗れたとは言え、私の感度は必ずしも悪くなかった。
そんな胸の張り方もある。

しかし君らはレコードを出したんだから、もう少し宣伝すればいい。
売るために出したんだろうが。


彼らとのファースト・コンタクトはスパイダーマンのサントラ。
映画版の第1作。2002年。

スパイダーマン
スパイダーマン
posted with amazlet at 18.01.29
サントラ ザ・ストロークス ハイヴス セオリー・オブ・ア・デッド・マン ピート・ヨーン メイシー・グレイ
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル (2002-05-09)
売り上げランキング: 19,511

このレコード、企画盤と侮るなかれ。
ロック好きにはかなり芳醇なレコードでありました。

時代はポスト・グランジ。既に流行り廃りとは無縁の大御所Aerosmithを据え、Alice in Chainsのジェリー・カントレルが脇を固め、血気盛んな若者たちをずらりと揃えた、今から見ても面白い一枚に仕上がっておりました。

SUM41、The Strokes、The Hives、といった一世を風靡した面々のほか、Slipknot/Stone Sourのコリー・テイラー、Nickelbackのチャド・クルーガーなど、今や大物となっている面々も当時はブレイク直前かブレイクしたて。新進気鋭の若者たちでありました。
確か僕はチャドの"Hero"目当てで買いました。それはそれでよかったのだけれども、"bother"におけるコリィ・テイラーの力量に瞠目しましたね。彼はこんなに深い声の持ち主であったか、と。
当時、Slipknotのコリィは、気味の悪いお面を被った極悪デス・ヴォイスという社会的認知だった。Stone Sourはもう少し後だし、1stはSlipknotに引きずられたような歌唱であった。
ミュージシャンの引き出しの多さを披露するのも、サントラのいいところなのかもしれません。


そしてInjected。
このテのヘヴィ・ロックは当時マジで雨後のたけのこのようでした。しかし、彼ら音楽は不思議なフックを備えていて、耳を捉えた。すごくキャッチーな種類の音楽だとは思わない。しかし、純粋に耳を引くのだ。


この曲、歌詞を呼んでもさっぱり意味が分からない。
語学力の不足か、パーソナル過ぎるか、そもそも意味がないのか。

コーラスで「君はなに色が好きなの?」と訊くのだ。
今どき中学生のデートだって訊かないだろう。
でもそれを訊いちゃう。男臭くて、暑苦しい声で。
そこが好い。

性別だとか年齢だとか、住む場所だとか。無数のパーソナリティを属性として死ぬまで携えている僕たちです。
そんな僕たちが、今在る属性を超えて、ついでにルビコン川も超えて、「あなたはなに色が好きなの?」と問うのは、極限的にシンプルな「あなたという存在の享受」への欲望なのではないでしょうか。
前回に引き続き、自分が何を言っているのかさっぱりわからない。

平たく言えば、萌えた。男ですけど。

教室で、オフィスで。雪の中で、スコールの雨宿りの中で。
「君はなに色が好きの?」と尋ねるのだ。否、否。尋ねるような人になるのだ。
その時の私の心持ちを想像するに、といれくいっくるで拭き清められた直後の白磁の便器の如く澄み渡っているでしょうし、桃色な気持ちなど微塵にもあろうはずがないのです。
何言ってるかわからない。

ええと。


2002年以降、僕は折に触れて彼らの消息を探していた。ウェブニュースはおろか、youtubeやitunes storeやmyspaceがサービスインするずっと前の時代。
アーティストが運営するページの更新を鎮座して待つ。そんな時代だった。次のレコードはいつ出るのだろう。いつまでも更新されないファン・ページがあった。それは覚えている。

あんまりにもリリースがなかったし、ウェブ上の書き込みも少なかった。
2002年は、いつのまにか2018年になった。
僕はそれなりに若いつもりであるし、若くないつもりでもある。
15年という時間は、それほど短いとは言えない。
まあ、引退してしまったんだろうと思っていた。
そこに新譜の報ですよ。


PREMIERE: AFTER 15 YEARS, INJECTED RETURN WITH ‘THE TRUTH ABOUT YOU’
いささか褒めすぎだと思う。
彼らはアトランタの生であったみたい。

声は衰えていない。タイトな演奏。
持ち味のフックは、いささか失われたか。
1stはブッチ・ウォーカーのプロデュース。メロディーメイカーの不在のせいか。あるいは一昨年亡くなったというギタリストのせいか。
はたまた単に調子が悪かったのか。僕にはよくわからない。

そんなことで、この新譜をどなたか勧めるかと問われると。
頭を振りながら、1stの方を勧めることになる。

Burn It Black
Burn It Black
posted with amazlet at 18.02.04
Injected
Island (2002-02-26)
売り上げランキング: 507,424

そしてここにもいささか物語がある。
少し不思議なことがある。
今はレコードを聴く時の選択肢が多い。CDを買う場合や、MP3みたいな音源をダウンロードする場合、あるいはApple MusicやSpotifyみたいなストリーミングサイトから聴く場合もある。
Apple MusicやSpotifyは4,000万曲といわれる膨大なカタログを持っているから、アーティストなりアルバムなり曲なりを選択すると関連付けされたコンテンツが紐付けされ、レコメンドされる。
ついでにこれもどう?みたいな。
Injectedの場合は、新譜である"The truth about you"のレコードは検索の結果引っかかる。サントラ収録曲は、サントラの一部として引っかかる。
でも1stの"Burn it black"はレコメンドされない。Itues storeとSpotifyで同じ結果になった。あれ?
ということは、彼らの1stはデジタル音源として流通(無料でストリーミングできるから、販売とは書かない)していない、ということになる。
でも、昔ながらのCDでは買える。
…この時代に?売る気がないんだな、とこの辺の対応を見ても思う。


もう一つ不思議なことが。
Youtube上に彼らの曲がアップされている。Youtubeは本人でなくとも音源や動画をアップロードできる。"Injected the truth about you"で検索すると、たぶん当人じゃない誰かさんがアップしている音源が見つかる。
そしてそのアップロードは2011年で、新譜の曲も含まれていた。今回未発表の曲と合わせてレコードの倍も収められていた。

まあ、たぶんこれはデモ・テープの流出なんだろう。
少し混乱して、久しぶりにファンページを訪れる。
"Be Dedicated, Be Loyal, Be Hardcore!!!"とある。
微笑ましい。大好きです。

このページは2005年あたりで更新を停止していたようだ。
ただし新譜が出たせいか、少しだけ簡潔な追記があった。
16年にギターが卒去した。17年ヴォーカルとドラムがマテリアルをリ・レコーディングした。それが僕の手元にあるレコードだということだ。


なんというか、過程が死ぬほど不足している。
唐突に届いた成果品を前にして、呆然としている。