2013年11月4日月曜日

研究発表は脇において、藻谷浩介さんの講演を拝聴する

先日、林道研究発表会というごくマイナーな発表会に出席したわけですが、まさかの基調講演で藻谷先生。俄然、興味はこちらに。

最近研究発表点数が減少していて、来年はお前ら頑張れとエライ人が仰っていました。発表者と聴衆の多くは行政関係者なわけで、その願いは残念ながら聞き届けられず来年以降ももっともっと減少するでしょうどうもお疲れ様でした、というところです。
人員や旅費や事業費がタイトになっている状況でなぜ余技に過ぎない技術研鑽に割く時間が増えていくのか、教示頂きたいものです。それが研究というものでありましょうし。
先方もお仕事なんでしょうが、なんだか空疎ですね。こういうのって。


藻谷浩介さんといえば「デフレの正体」。ハノイのJICAベトナム事務所には共用の本棚があります。事務所はボランティアや職員、専門家が年中出入りしていて、読み捨てた舶来の書籍が放置されていています。いつぞやのハノイ出張の際に発見。もちろん日本語の書籍が簡単に手に入るわけではないのでラッキー。と思いました。よく考えれば電子書籍とかで読めたのか。うん、そうかもしれねぇ。

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
藻谷 浩介
角川書店(角川グループパブリッシング)
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僕もやっぱり読み捨てて帰国したので手元にありません。詳細は憶えてないけれど、「人口の波による変化」がテーマ。バブル期を境に日本はある種の定常状態に入ってしまった。原料や交通、嗜好品に至るまで需要は頭打ち、今後徐々に減少していく、という話。
人口が減っているから、そりゃそうだ、と実感と合うわけです。それと数値で示されると説得力があるなぁと。
帰国後、いわゆるアベノミクス(は使いたくないのでリフレーションと呼ぼうよ)をめぐって、藻谷批判の記事もいくつか読みました。どちらも抑えておく点はあると思いましたが、リフレーションによる需要創造はあくまで短期的、せいぜい3〜4年くらいな視点だと思うんです。小さな波、です。一方で、大きな波である中長期的なトレンドは人口減少による需要ー消費減、というのは合っているんじゃないか。移民とか受け入れれば別ですけど。
ただ、今(というか1年くらい前)の状況はさすがにへこたれすぎやろ、というのがリフレ派の人々の主張するところだったと思います。「人口も需要は減っていくし成長できんからサイフの紐を締めて簡素な生を」、なんてのはやっぱり逆に振れすぎだと。これからの時代はDIY・ロハスだぜ、と言ってる人がバブルで楽しい生活を謳歌していた可能性に思いを致すと、軽い殺意を憶えないこともないロスジェネ世代が通りますよ。
まとめますと僕からすると両者あんまり矛盾している感じがしないんです。僕がバカなだけかもしれません。
講演中、藻谷さんは「アベノミクスなんか意味ないぜ」と予定通り力強く言明されていましたので、反論は飯田泰之さんとか高橋洋一さんあたりにお願いしたいところであります。

以下、メモを元に講演内容を振り返ります。
演題からして「林業って儲からないの?」と軽く聴衆にケンカを売ってます。藻谷さんは動物園のくまさんのように壇上いっぱいにせわしなく動き回り、持ち時間いっぱい聴衆を挑発し続けていらっしゃいました。とくに愛らしいとは思いませんでしたが、シアトリカルなスタイルは実に印象的でした。速射砲みたいにしゃべるんだ、この人。
外材が悪いのか? 
よく言われる日本の木材が売れない理由:「外材が安くてそれに押されているから」。TTPもはじまる(林業あんま関係ないけど)。でもそれは本当だろうか。ウルグアイ・ラウンドで牛肉・オレンジが自由化されたけれど、日本の産地は無くなってはいない。
・車離れとニーズ、付加価値
都会の車離れ:実際のところ多くの都市生活者が乗りもしない車を今も維持している。ガス代と維持費を考えたらライトユーザーにとって、タクシー・レンタカー生活のほうが絶対安い。そして彼らは損をしている自覚もない。その意味で自動車業界の戦略は奏功している。 
昨年度、国内の(FITやDEMIOより高くて性能が悪い)ドイツ車販売は過去最高を記録(退職した退職金を持つ団塊世代がターゲット)。付加価値はユーザーがつける、マーケットが決める。生産者ではない。みなさんは木材をFITやDEMIOみたいな売り方をしてませんか?
・高齢化の進展とターゲットの設定 
昭和45年(団塊世代の親の子育て期)と平成2年(団塊世代の子育て期)が住宅産業の最盛期。団塊ジュニアは子どもがいない(バブル崩壊で就職期に損をこいたせいで結婚せず子どもを産まないという生存戦略w)から家を建てない。住宅需要は2つの山を境にピークアウト。今後、家を建てる人は減っていく。 
日本人の資産額:1,500兆円。毎年貯金30兆円残して人は亡くなる。平均相続年齢は67歳。彼らはもうそれほど使わない(本当に使いたい人はお金を持っていない)。日本の年間小売販売額:140兆円くらい。この20年ほぼ横ばい。もし預貯金の1%でも市場に流れるだけで+15兆円=155兆円。史上最高を記録する。高齢世代にターゲットにする方法を検討する必要性(ex.木造の老人ホーム、消防法の改正)。 
・林業と国土保全 
木材生産と並ぶ柱は「国土保全」だったはず。ただ、都会の人には実感もわかないし、そもそもそんな難しいことはわからない。山裾に人を住むのをやめて、人工林を原生林に戻せばよいくらいに考えている(林業関係者のプロモーション努力ほど、都会に住む人々には必要性は響いていない)。
・燃料代の圧迫と木材利用の好機
中東からの原油輸入の増大。 20年前は年間5兆円程度、現在では年間30兆円。貿易収支圧迫の主因。(あくまで製材業との兼ね合いによるが)バイオマス発電(発生する木くずの利用を念頭においた)による木材利用の拡大が検討されるべき。 
オーストリア:年間森林成長量の70%を利用。需要の3割が自然エネルギーで賄っている。集成材に加工し低層・中層住宅を作っている。「石の町」のイメージは森林枯渇によるもの、本来彼らは木材住宅が好き。年間4〜5,000億円の木材商品の輸出(日露貿易額に匹敵)。

・まとめ 
国産材の付加価値供与(消費者のターゲティング)+木くずの利用(燃料としてのバイオマス利用) をセットで考えていくのが今後のあり方。

聞き間違いしてたらごめんね。あくまで僕の印象に残った部分だけです。
( ´_ゝ`)フーン、と聴いていたのですが、「デフレの正体」で読んだ数字を少し思い出したりしてました。バイオマス発電やオーストリアの関連は最近出版されて本屋で平積みしてある「里山資本主義」に詳しいです。僕も今読んでるところです。

里山資本主義  日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
藻谷 浩介 NHK広島取材班
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講演を聴きまして、藻谷さんのご意見に基本的に賛成です。面白かった。僕も儲かる林業を考えたいです。公共性とか公益性を謳えば謳うほど、うまくいかない理由を探しているようで、なんだか萎えるのです。仕事柄もあるでしょうし、根っこのところで僕がお金儲けが好きなせいもあるでしょうし。

講演中にあった付加価値ついて、僕も関心があるのですがあまりうまい方法が想像できていません。以前こんなこと(「たまごのことを考えながら、インフレ率であそぶ②」)を書きました。これ、だいたい1年くらい前のエントリで改めてわりかし面白く読んだんですけれど、この書き手は絶対性格が悪いだろ、とも思いました。
やっぱりコスト削減に話が落ちていて、実ににべもないです。愛がない。まったく冷たい男だ。もちろんコスト削減も相変わらず大事です。でもすり減るんです。
付加価値に関しては稿を改めて考えてみたいと思います。


で、講演と最近のことがらをまとめて感想。
最近うちの工事で発生した支障木を売却したんですけれど、あんまりいい材じゃなかったもので合板材として出すことになりそうなんです。しかし造材作業がめんどくさい。機械に通す関係で規定寸法(2mとか4mとか)+15cmまでで管理しろとか径は16〜48cmだとか。
木材を伐採・搬出するための仕事をしているんだったら喜んでやるけれど、そもそも引き受け価格だって低質材で足元を見られたような値段なわけで、そんなことに大切な工事日数を浪費するのが不本意でした。そもそも工事は木材を売るんじゃなくて林道を造る仕事だし。工事費の圧縮という意味で一定の意味は認めますが、労力とコストに見合ったリターンではないなと。

バイオマス発電(もちろん熱利用でもいい)のメリットの一つは「樹種や造材の形は問わない」ことです。弾丸みたいなペレットにしてしまうから。バイオマス施設にとってみれば減価償却のため(もちろん地域電力を賄うためだともっとかっこいい)に稼働率を上げたいわけで、そうすると安定して燃料が供給されることが望ましいわけです。
藻谷さんは製材残滓のバイオマス利用を念頭においてましたが、それは(大規模な)製材所は木くずが大量に集積するから、という部分もあるでしょう。最初から木材を燃料として扱ったっていいはずです。
現場で適当にちゃっちゃ伐って玉切りした木材がペレット工場を通過してバイオマス施設に大量に流入することになります。そこから何が起こるかというと、合板工場の原料不足による引受額の上昇、及び木材市場に流入する低質材が払底することでの(条件によって合板に流れるため)結果的に市場取引額の上昇、です。

「B材C材の利用先確保」ってここ数年盛んに言われてきました。その中で出てきたのが南洋材に代わるスギ合板なのだけれど、この需要はさっぱりサプライヤーフレンドリーではなかったわけです。もちろん低質材利用の選択肢として一定の役割はありました。
今後は燃料ー低質材利用ー製材利用と複数のオプションを用意しておくことで、より使いやすくなるし、「本当に売りたいもの」の値段も上がっていくのではないでしょうか。

佐渡とか、バイオマス適地だと思うんですけどね。離島だし、ちっこい火力発電所2つだけだし、ガソリン代は本土+20円だし、山に木いっぱいあるし。この前友だちとそんな話をしました。


講演中、藻谷さんが仰っていたのは林業関係者の危機感のなさでした。寝ててもいいけれど困るのはあなた達ですよ、と。そして、本当に林業をイノベートしていくのは林業関係の人ではないかもしれない、とも。僕も実は同感なんです。