2013年12月1日日曜日

2012年の温室効果ガス排出量をちらちらと眺める

なんだかきちんとした分析をしたいものよのう、と思っているのですが、そんな時間もツールも能力もありません。ただ数字をいじって一人で悦に入るくらいが関の山です。
昨年(COP18レヴューやら11年排出量やら)に引き続き、今回もざっくりと見ていきたいと思います。

ということで、ニュースにもなってましたが出てます。速報値ですけど。
日本の温室効果ガス排出量の算定結果(環境省)
最近の官公庁の資料は見やすくてよいですな。



まずは結果から。
2012年度の温室効果ガス排出量は13億4100万トン。2011年度(13億800万トン)と比較して2.5%の増加。京都議定書で定めた基準年(1990年)の排出量12億6100万トンより6.3%増加している。
そしてルールの復習。
京都議定書は2008年〜2012年の5年間を第一約束期間としていて、5年間の平均排出量が基準年排出量から約束分を追加的に削減するお約束になっている。日本は90年比-6%の削減をお約束したので、ここ5年の平均排出量がそれを下回っていればよい。

データに戻ると、5カ年の平均排出量は12億7900トンであり90年比1.4%の増であったことがわかる。だめじゃん。とはならない。
ちがいます。もうひとつゲタを履かせる。森林吸収源と京都メカニズムだ。森林吸収源は間伐などの森林整備を行うことにより吸収量を増加させる仕組み。これが3.8%分ある。
京都メカニズムは設備更新や海外植林なんかで、温室効果ガスをシンクしたり出るはずのガスが出なかったりした場合にクレジットを交付される。それを国や企業が買い取ることで、買い取った国の排出量を削減することができるルール。これが5.9%分ある。

つーことで、1.4-3.8-5.9=-8.2だ文句あっか、というのが今回のペーパーの要旨。まさかの算数であります。その割に少数第一位が0.1合いません。これは凡ミスではなく端数を丸めたらこうなっちゃった、ということだろう。そう信じたい。
そしてこの数字を算出するためには膨大な調査をしているはずで、その労力に敬意を表したいと思います。

で、やったぜかーちゃん削減たっせーだぜ、ともならない。だって増えてるもの。
とは言え、約束をちゃんと履行できたことはひとまずよかったのではないか、と思うわけです。ゲームのルールがアレだ、という議論とはまた別の話で。
飲んだルールでちゃんとゲームを最後まで上がるのは大事なことでしょう。


ところで今回結果の評価に関して、環境省は2点指摘しています。
ひとつは2008年のリーマン・ショックを起点とした景気後退による排出減。もうひとつは、東日本大震災以降の原発停止による火力発電所による排出増。
たぶん、それはその通りなんだろうな。と思う。仔細に見ていくと、90年と比較してそれほど景気に左右されにくいと思われる運輸部門がほぼ横ばいで推移していたり、むしろ家庭部門の排出増が目についたりする。
90年から人口はいくらか増えているものの、そんなに変わりないはずなのに家庭部門の消費が90年から1.5倍に増加していることは、残念ながらこの20年でライフスタイルがエネルギーをより消費するものに移ってしまったことを示している。
あんなにテレビでエコエコ云ってるのにな。

そして意外に産業部門が健闘しているようにもみえます。実際企業でも努力は進めていると思われますが、でもこういうのって景気の波もでかいよな。ということでグラフにしてみる。棒グラフは年別実質GDP、折れ線が排出量。
出典はIMFで世界経済のネタ帳さまより数値を拝借。超便利。いつもお世話になってます。


うーん。GDP的には頭打ちの20年であった。それでも2010年くらいからいくらか増加に転じているのかしら。実感ないけど。

排出量は上下しているのだけれど、それでもこうしてみるとかなりGDP(≒景気)とリンクしていることが分かる。経済年表を紐解きますと、98年がアジア通貨危機、02年はなんだろう。イラク戦争とか。りそな国有化っていうのもある。09年はリーマンですね。
リーマンでかかった。おかげで約束達成できた。リーマン・ショックでできた奈落は場合によっては景気がそれくらいパワフルに排出量に寄与することを示している。
そしてもう少し長いスパンでみれば、バブル以降、やっぱり景気が低迷してたから排出量が増えなかったんでしょう?と言いたくなる。
結局は経済や景気が排出量を決める、という話になってしまうのかなぁ。


で、他の国はどうなのか。例えばドイツ。
http://www.bmu.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Klimaschutz/hintergrund_treibhausgasausstoss_d_2012_bf.pdf
ドイツ語さっぱり読めんけれど、当たりをつけてみた。たぶん合っていると思う。
そして、成長率と排出量の関係はどうなのかと思ってざっくりグラフを作るとこうなる。

面グラフがドイツと日本の排出量、折れ線グラフはドイツと日本の成長率。

成長率の挙動は似ているけれどところどころ違う。アジア通貨危機はドイツはそれほどでもなかったらしい、とか。リーマンはどっちもだめだったんだ、とか。やっぱり地震はアカンのやな、とか。
日独で大きく違うのはドイツの排出量の削減トレンド。ほぼ一貫して排出量が下がっている。削減を進めながら経済成長しとる。まったく恐ろしい国だ。ここ20年、年率2〜3%くらいは固いんじゃないかな。日本は上下に触れているけれどやっぱりゼロ成長くらいでしょうね。

1990年といえばドイツは東西統一した年。特に東ドイツは老朽化した効率の悪い設備も多く、90年を基準年とすると削減ポテンシャルが高かった、という話もある。だからドイツが特別なのだ、という話をするのもいい。
でもね、これをイギリスとフランスでやってみたけれど、やっぱり削減が進んでるのよ。同じく減少トレンドを描く。日本は明らかに横ばいのトレンドですよね。
これはいったいどういうことなのか。よく言われるように日本の雑巾はすでにけっこう絞れているから難しい、ということなのだろうか。よくわからない。


もしかしたら経済成長と排出削減はトレードオフ関係ではないかもしれません。っていう話をするとすごく面白いなぁと思います。
ポスト京都議定書に関してはいずれまた考えてみたいと思いますが、どうもこの辺の結果検証が気になるところです。鳩山さんの25%削減は結局撤回されたけれど、それが前向きか後ろ向きか、という話をする前にもすこしその辺の話を調べてみたいですね。
時間があればね。